新連載 樹脂用添加剤・配合剤ガイドブック
第7回 機能性付与剤-① 難燃剤
ポリマーテク研究所 葭原法
1.はじめに
プラスチックスの中には、ふっ素樹脂やPPSのように、酸素指数が高く樹脂自体が難燃性を有するものもあるが、大部分は可燃性の材料である。電気・電子部品に使用されるプラスチックス材料には、火災防止のために燃焼性の法的規格・基準があり、難燃性を付与して使用されている。燃焼の過程は、(1)加熱、(2)分解、(3)着火、(4)燃焼、(5)炎の伝播で進行する。この燃焼には、燃焼物質・エネルギー・酸化剤の3要素が必要であり、このいずれかの条件を除去する方策で難燃化される。難燃化のために配合される難燃剤も、次のようなメカニズムで難燃化に作用する。①酸素を遮断する層を形成する。②活性ラジカルを補足し、安定化して燃焼ガスの発生を抑制する。③燃焼系から熱を奪う。④燃焼成分をチャー化して固定化する。⑤不燃性ガスを発生し、可燃性ガスを希釈する。
2.難燃剤の種類と選択のポイント
難燃剤には、図1に示したように、無機系化合物と有機化合物がある。さらに有機化合物には反応型と添加型がある。反応型の場合、臭素化モノマーやリン酸エステルを重合モノマーの1成分として重合することや、ポリマーのコンパウンド化時に配合して使用されている。添加型では、ブリードやドリップ防止のため、高分子量化したものも使用されている。
(1)水和金属系化合物
水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムのような水和金属が燃焼時、脱水する吸熱反応による冷却効果と、生成したH2Oによる気相中の燃焼ガスの希釈効果と生成した酸化物と生成チャーとの断熱効果によるものである。水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムの分解温度は、燃焼時の材料温度400~600℃より低く、かつ吸熱量は1600J/gを超えるから難燃化の効果が高い。ただ、熱分解温度が低いので加工温度の高い樹脂には適用できない。また必要配合量が多く、物性や加工性の保持が課題である。
(2)ハロゲン系
臭素や塩素を含有する化合物が、燃焼時ガス化し、活性なOH等をトラップすることと、生成する臭化水素や塩化水素が不燃性であり、希釈効果と酸素遮断効果を示す。また、固相において酸化作用により炭化物を生成し、空気遮断効果と断熱効果を示す。総合的にみて、高度の難燃化に有効な難燃剤が多いが、環境問題に関する懸念の払拭が課題となっている。
(3)リン系
単体の赤リンや無機化合物や有機化合物がある。難燃剤が熱分解して、強い脱水作用により、チャーの生成を促進し、空気遮断効果を示す。化学的活性が、樹脂の加水分解や金型汚染などに影響することもあり、安定化が課題となっている。
(4)窒素系
炭酸アンモニウムのような無機化合物やメラミンシアヌレートのような有機化合物がある。生成するアンモニアや窒素による希釈効果と空気遮断効果による。また昇華熱による降温効果も複合されている。
(5)シリコン系
シリコン自身の耐炎性と、燃焼時、不燃性のシリコンカーバイドを生成すること、樹脂炭化物との複合化により難燃層を形成する効果による。
これらの中には、母相である樹脂の性質や加工条件のために使用できないものもある。次のようなポイントから選択される。
- 成形加工時の温度:成形加工温度で熱分解しない
- 部品使用時の温度:使用時の環境で分解しない
- 母相との反応性:母相の樹脂を分解や変質しない
- 毒性:分解生成物を含めて有害でない
- 母相への分散性:母相に均一かつ安定的に分散するブリードしない
- 変色性:難燃剤自身や母相や他の添加剤を変色させない
- 電気特性への影響:絶縁性を低下しない
- 母相の熱劣化や加水分解を促進しない
- 母相の物性低下への影響が小さい
- 難燃化に有効な成分含有率が高い
- 価格
難燃剤は、難燃化に有効な成分であるハロゲン、リン、窒素、シリコン、結晶水などを含み、燃焼による熱の作用で遊離して、固相中や気相中で消火に作用する。
なお、難燃化のメカニズムが異なると考えられているハロゲン系とリン系、リン系と窒素系、水和金属塩化合物系とハロゲン系やリン系は、相乗効果を有することが知られている。樹脂の加工温度や使用温度が高いエンプラやスーパーエンプラには、オリゴマー型や重合型難燃剤が使用される場合が多い。
また環境保護の関係から、ノンハロゲン系難燃剤の要求が高まり、ノンハロゲン系難燃剤の開発検討が進んでいる。技術的課題と経済的課題の両立は、容易ではないが、比較的難燃化しやすい樹脂で実用化されつつある。
3.難燃助剤
単独では、難燃性に殆ど効果はないが、他の難燃剤と組み合わせると相乗効果で難燃効果を発揮する難燃助剤が知られている。代表例は、ハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンの組合せである。図2は、臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの相乗効果で燃焼時間が、大きく減少することを示している。アンチモン化合物としては、三酸化アンチモンに限らず、アンチモン酸ナトリウムでも同様の効果を示す。これは、ハロゲン化合物とアンチモン化合物の反応生成物であるSbO3やSbOxが、ラジカルトラップ効果や気相で空気遮断効果を示すと考察されている。ハロゲン系難燃剤の難燃助剤としては、他にZnS、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、各種金属化合物がしられている。また水和金属化合物や、リン系、窒素系、シリコン系のノンハロゲン系難燃剤には、各種の金属化合物、金属硝酸塩、有機金属錯体の難燃助剤効果が報告されている。
4.低発煙剤
燃焼時の発煙は、発煙の有害性と共に、視界を妨げて避難行動を阻害するので好ましくない。PVCなどの発煙抑制研究が広くなされている。低発煙性のために、スズ、ニッケル、バナジュウム、モリブテン、シリコン、ホウ酸塩の添加が有効であることが報告されている)。チャーの発生促進が燃焼物を低減することから、スズ系化合物やモリブテン化合物、架橋構造の高度緊密化などが難燃剤との複合効果として発煙抑制が知られている。
5.ドリップ防止剤
樹脂が燃焼すると、燃焼した溶融樹脂が滴下して延焼する可能性があることから、高度の難燃性樹脂にはドリップ防止が要求される。また、ドリップ防止することにより、材料の小片化が抑制され、難燃剤必要量の低減に繋がるケースが多い。フィブリル化したふっ素系樹脂が、低粘度樹脂の溶融張力を上げ、ドリップ防止効果を有することが知られている。
6.難燃剤の配合量
難燃剤は、EC60695-10、11やUL94などの規格により試験して、要求される厚さ範囲に渡って難燃性を満足する配合量が選定される。配合量が多いと、機械的性質や化学的性質などに影響するからバラツキを考慮した最少必要量とされる。分配性や分散性が低いと高い配合量を必要とするから、均一性が重要である。また、不燃性である無機化合物を配合しても、逆に材料の燃焼性を高めることがあるから注意が必要である。図3は、無機化合物が配合されたPET樹脂と非配合のPET樹脂について、難燃剤配合量と燃焼時間の関係を示している。燃焼時間を低減するには、ガラス繊維強化>ガラスビーズ>非配合の順に難燃剤配合量が多く必要であることを示している。材料のコンパウンド成分が難燃性に大変影響するから、コンパウンド材料毎に確認が必要である。
難燃剤分子中の難燃化に有効な成分は、その作用機構から、ハロゲン・りん・窒素・水分であり、これらの含有率と難燃性の相関があり、難燃剤の必要配合量の算定の尺度となる。難燃化に必要なコストと物性保持率を考慮して難燃剤が選定される。
参考文献
- 加藤;日本ゴム協会誌,54682(1981)