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添加剤ガイドブック

ADDITIVES GUIDEBOOK

新連載 樹脂用添加剤・配合剤ガイドブック

第3回 成形性改良剤の選定と評価方法、上手な使い方

ポリマーテク研究所 葭原法

1.成形方法と適正粘度

高分子の成形方法には、押出成形やブロー成形や真空成形のように比較的高い溶融粘度が必要な成形方法がある一方、射出成形やレジントランスファー成形やハンドレーアップ成形のように比較的低い溶融粘度が必要な成形方法もある。溶融粘度は、ポリスチレンを例にとると、(1)式のように分子量と関係するから1)、成形方法に適正な分子量の設計が必要になる。

\(\log⁡ \delta 0 =3.4 \log⁡ Mw + A\) (1)式

ここで、\(\delta 0\)は、ずれ速度がゼロの場合の粘度、\(Mw\)は重量平均分子量、\(A\)は温度によってきまる定数である。また、溶融粘度は、温度により大きく変化する。一般に粘度の対数は、絶対温度の逆数に比例することが知られている。

したがって、成形加工法に適切な分子量の材料と成形温度の選択が好ましい。しかし、その高分子の重合技術や経済性から、目標とする分子量を持つ高分子を得ることや、変質や熱分解の面から成形温度を選定することが困難なことが多々ある。また一般に分子量が小さくなると機械的性質が低下することから、分子量低下は溶融粘度を調節する方法として不適切となる場合も多い。

2.粘度調節方法

図1 粘度調整方法

成形方法に適当な溶融粘度を有する材料が入手できない場合、粘度調節が必要になる。図1に示したように、粘度調節には、大きく分けて二つある。ひとつは、化学反応により、分子量を増減する方法である。もうひとつは、高分子の分子量を変化させることなく、添加剤により、流動性を調節する方法である。

3.分子量調節剤

図2 再生PETの無水ピロメリット酸による鎖延長

ポリアミド樹脂や飽和ポリエステル樹脂のような縮重合系高分子の場合、化学平衡を利用して、固相重合することや、末端基と反応するイソシアネート基やエポキシ基のような多官能基をもついわゆる鎖延長剤を使用することで分子量を増大し、増粘することができる。例えば、図2は、再生PETの無水ピロメリット酸による鎖延長反応の分子量変化を示している。鎖延長剤は、モノマーに限らず、オリゴマーや高分子である場合もある。

また、ポリエチレンや不飽和結合を有する不飽和ポリエステルやSBRなどの場合、架橋剤や有機過酸化物や加硫により分岐結合して、増粘することが可能である。高分子量の鎖延長剤や架橋剤を使用することで、ホモポリマーからブロック共重合体やグラフト共重合体として、分子量調節する方法も工業的に実施されている。逆に、分子切断による分子量低下により、粘度を低下する方法もある。縮重合系ポリマーの場合、化学平衡を利用して、解重合方向に各成分の濃度調節を行うことで分子量を低下することができる。結合交換反応を利用した分子切断剤によっても可能である。また、ポリプロピレンのように、ラジカルに対して分子崩壊型の高分子においては、有機過酸化物によるラジカル発生により分子切断し、粘度調節が可能である。

4.有機過酸化物と分解促進剤

ポリプロピレンのメルトフロー調節には、ポリプロピレンの融点や加工時間から、有機過酸化物が選定される。ポリプロピレンに有機過酸化物が溶融混合される前に、有機過酸化物が分解を開始すると局所的な不均一反応が起こり好ましくない。また加工機内の滞留時間内に半減期を経過しないと品質が安定しないので好ましくない。有機過酸化物メーカの技術資料には、有機過酸物の活性酸素量が半分になる半減期が1分、10時間、100時間となる温度などが表示されるので、図3にジクミルパーオキサイドについて示したように、この\(1 / T\)と半減期\(t1 / 2\)の対数の一次関係から任意の温度における半減期を求めて選定するとよい。

図3 ジクミルパーオキサイドの温度と半減期の関係

またポリエチレンなどでは、有機過酸物により分岐結合が発現し、レオロジー特性が調節できる。不飽和ポリエステルのような硬化反応には、期待するシェルフタイムと成形温度から選択される。高い分解温度の有機過酸化物をレドックス反応によって分解し、活性ラジカルの発生を容易にする促進剤を併用することにより常温で反応を開始することもできる。促進剤として、コバルトの有機酸塩や第3級アミンなどが例示される。一方、樹脂製造上や貯蔵上は、ベンゾキノンやハイドロキノンなどのキノン類を重合防止剤として添加量により安定性を調節している。

5.可塑剤

可塑剤による効果は、単位体積中の高分子分率の減少、すなわち希釈効果と、低分子量物質が高分子中に分子分散して、高分子の分子運動性を高める可塑化効果の二つに大別される。可塑剤は、高分子間の相互作用を断ち切って、分子同士を滑りやすくするものである。したがって、可塑剤を添加することで、粘度\(\delta\)が下がると同時に、緩和時間\(\tau = \delta / G \)が短くなり、ガラス転移点の低下や希釈効果により弾性率も低下する。本節の目的である物性を保持して、成形加工性を改善する場合、可塑剤添加は、少量に抑えられる。可塑剤は、高分子と分子相溶し、高分子間に分子分散する必要がある。低分子量の添加剤が多く、母相の高分子に同系の低分子量高分子やオリゴマーを添加して、流動性を向上することがある。これも可塑剤効果のひとつである。

主な可塑剤としては、ジオクチルフタレートのようなフタル酸エステル系、リン酸エステル系、アジピン酸エステルのような脂肪酸エステル系、ポリエステル系、エポキシ系、スルホン酸アミド系などがある。

ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリスチレンのようなビニル系樹脂や、ポリカーボネート、ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂や酢酸セルロースや硝酸セルロースのような熱可塑性樹脂の成形性や物性調整剤として広く使用されている。また、エポキシ樹脂やフェノール樹脂やメラミン樹脂のような熱硬化性樹脂においても可塑剤は選択して使用されている。

6.滑剤

樹脂の流動性を高める滑剤は、二つに分類される。ひとつは、内部滑剤と呼ばれるもので、樹脂によく溶け込み、高分子間の摩擦を減少させ、流動性を向上する。もうひとつは、外部滑剤と呼ばれるもので、高分子への溶け込みが弱く、金属表面と樹脂間に潤滑層を形成し、流動性を向上する。これらの区分は明確ではなく、使用される高分子の性質により、内部滑剤として作用することや、外部滑剤として作用するものもある。また両方の効果を有する滑剤もある。高分子の溶融粘度は高くても、金型やダイとの滑り性を上げることで流動性は調節できる。高分子と金属にそれぞれ親和性を有するふたつの部位を持つ低分子化合物は、高分子と金属の界面に移行しやすく、低分子量のため粘度が低く少量の添加で滑性が得られるものがある。炭化水素系、シリコーン系、高級アルコール系、高級脂肪酸系やこれらの化合物には、このような作用を有するものがある。また、このような添加剤は金属と高分子にそれぞれ親和性を有するから、ゴムのロール加工のような場合、樹脂がまとまり、作業性が大変改善される。このような添加剤により、高い分子量をもつ高分子をそのまま加工できるので高い物性が保持されることから滑剤の選択は重要である。

滑剤の評価は、ロールミル試験法、プラストグラフ法、スパイラルフロー法、メルトフローレート試験法などで評価される。

7.チクソトロピー剤とレオペクシー剤

高分子には、ある降伏値を超える応力によって粘度が低下する構造粘性を有する、いわゆるチクソトロピー性を有するものや、逆にある降伏値を超える応力によって、分子間に構造が生成するレオペクシー性を有するものがある2)。高分子によっては、少量の添加でチクソトロピー性やレオペクシー性を付与できる添加剤がある。チクソトロピー剤やレオペクシー剤の選択により、溶液や懸濁液や乳濁液のゾルーゲル変化を利用した取り扱いや加工ができる。

チクソトロピー性は、ブルックフィールド型粘度計を使用して、6回転と60回転の時の粘度比を指標とすることや、回転二重円筒型粘度計を使用して、外筒を一定の角速度で回転し、内筒の回転角の変化を指標とすることや、せん断応力とせん断速度関係のヒステリシスループのループ面積により評価される。

成形された液状樹脂が、硬化前に重力により流れ出す現象を防ぐことが必要な場合がある。この現象は、チクソトロピー性を有する添加剤を使用することで防止できる。構造粘性は、応力ではなく温度でも破壊する。高分子の極性基に水素結合や配位結合やイオン結合する添加剤があり、これらの構造破壊がおこる温度で粘度が激変する。微粒子シリカや活性カーボンブラックや水素化ヒマシ油などが実用化されている。シートモルヂングコンパウンド(SMC)の酸化マグネシュウムによる増粘なども、この性質を利用したものである。

8.成形性改良添加剤の選択

成形性改良添加剤を選択する場合、改良効果の他に次のようなポイントで評価される。

  1. 加工する適正温度範囲で改良効果が発揮できること
  2. 樹脂との相溶性がよく、分散性がよいこと
  3. 熱安定性を有すること
  4. 樹脂の劣化を促進しないこと
  5. 加工時、変色や着色しないこと
  6. 使用時ブリードアウトしないこと
  7. 毒性がないこと

参考文献

  1. T.G.Fox,P.G.Flory,J.Polymer Sci.,14,315(1954)
  2. 井本立也、概説レオロジー(上)、21、東京化学同人(1963)
  3. 山本ら、東京都立産技研研究報告 第7号、71(2004)